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知っておきたい! 甲状腺眼症の正しい知識

知っておきたい! 甲状腺眼症の正しい知識

甲状腺眼症の症状や疾病負担、治療の課題などについてご紹介します。

  • 概要
  • ナレーション

知っておきたい! 甲状腺眼症の正しい知識
再生時間 08:25

先生は甲状腺眼症をご存じでしょうか?
甲状腺眼症はバセドウ病に合併することが多い希少疾患です。しかし、これらは発症部位や病態が異なる疾患であり、治療にあたっては、バセドウ病などの甲状腺機能亢進症の治療に加えて、甲状腺眼症に対しての治療も必要となります。
本コンテンツでは、甲状腺眼症の症状や疾病負担、治療の課題などについてご紹介します。

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甲状腺眼症は主にバセドウ病やまれに橋本病に伴ってみられる希少疾患で、眼窩組織の自己免疫性炎症性疾患です。

発症率は日本のデータでは10万人・年当たり7.3人であると算出されており、性別でみると女性では13.0人、男性では3.6人と、男性より女性に多くみられることが報告されています。また、発症のピークは男女とも二峰性で、女性では40歳~44歳と60歳~64歳、男性では45歳~49歳と65歳~69歳とされています。

甲状腺眼症による外見の変化および視機能への影響は、患者さんに心理的、身体的、経済的な負担を強いることにつながり、QOL (quality of life) が著しく損なわれると考えられています。

甲状腺眼症の主な症状には、ご覧のようなものが挙げられます。また、症状に日内変動がみられ、朝方に強くなるのが特徴的です。中でも代表的なものは、眼瞼後退と眼球突出です。

眼瞼後退は、上眼瞼が眼輪部またはその上に、下眼瞼が眼輪部より下に位置することをいいます。患者さんの91%に発現する症状であり、特に上眼瞼後退は70%以上に発現したことが報告されています。眼球を下方視に移行させる際に、上眼瞼の動きが遅れるため白目が残って見えてしまうグレーフェ徴候は、眼瞼後退と密接に関連しています。

眼瞼後退は、完全に閉眼できない状態である兎眼や、眼の痛み、充血、異物感、ドライアイ、流涙などが生じる兎眼角膜症の一因とされています。

一方、眼球突出は、眼球の前方への変位または突出と定義されており、甲状腺眼症患者さんの約62%に生じたと報告されています。眼球突出は、兎眼、乾燥、不快感、痛み、視力低下、兎眼角膜症、顔貌の変化、複視などに影響を及ぼします。

このように、視機能に大きな影響を及ぼす甲状腺眼症ですが、自然経過は大きく活動期と非活動期に分けられます。

活動期では、眼窩または眼窩周囲の炎症の進行により症状があらわれ、経過とともに悪化が進みます。通常は6~24ヵ月続き、場合によっては最長で3年間続くこともあったと報告されています。この活動期に生じる症状としては、眼窩の炎症や充血、眼球後部の圧迫感、眼瞼後退、眼球突出、複視などが挙げられます。

非活動期では、炎症が沈静し、疾患の進行が止まったようにも見えますが、眼球突出や眼球運動障害が残ることがあります。そのため、早期診断と適切な時期に治療を行うことが重要です。

それでは、こういった症状は患者さんの生活にどのような影響をもたらすのでしょうか。

甲状腺眼症患者さん41例を含むバセドウ病患者さん73例を対象とした、視機能に関連して制限される活動を調査した結果では、75.6%の甲状腺眼症患者さんが視機能の変化を有し、その影響により日常の活動や趣味などが制限されたことが示唆されています。

また、甲状腺眼症は、機能的な問題だけでなく、疾患に関連する心理社会的影響によって生活の多くの側面にも影響を及ぼします。心理面に関する調査では、甲状腺眼症患者さんのうち95.1%が顔貌の変化を気にしていたことが報告されています。

さらに、甲状腺眼症は患者さんの就労にも影響していたことが報告されており、経済的にも負担が生じるリスクがあります。

このように、甲状腺眼症は視機能だけでなく、顔貌の変化によって自己肯定感、人間関係、雇用にまで悪影響を及ぼしうる疾患です。診察室で確認できる症状の改善だけでなく、患者さんの気持ちに寄り添い希望をふまえた治療ゴールの設定が求められるのではないでしょうか。

患者さんに機能的な問題のみならず心理的な負担を強いる甲状腺眼症の治療は、活動期と非活動期で異なっています。

活動期においてはステロイドパルス療法が推奨されています。そして、非活動期においては、視機能の回復や整容性を目的とした手術療法のみとなっています。 このように、現時点では、入院や手術などを要する負担のかかる治療が必要となっています。

また、発症から2年ほどの活動期に治療介入することが求められていますが、診断と紹介の遅れによって患者さんが治療機会を逃していることが課題となっています。たとえば、海外において甲状腺眼症発症から専門医を受診するまでの期間の中央値は16ヵ月であったことが報告されています。適切な介入を行うためには、アレルギー性結膜炎や緑内障などの甲状腺眼症の症状と類似している疾患との鑑別を行うことが重要です。

『バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針2023』では、一般医のための甲状腺眼症専門機関への紹介基準がまとめられています。

甲状腺眼症診療には、バセドウ病などの甲状腺機能亢進症の治療に加えて、甲状腺眼症に対しての治療も必要です。そのため、甲状腺眼症が疑われる患者さんを、より甲状腺眼症の疾患理解が深い内分泌(甲状腺)科医や眼科医に紹介することが求められます。

今回のまとめです。

甲状腺眼症の患者さんは、外見の変化や視機能への影響により、QOLが著しく損なわれます。患者さんが日常の生活を取り戻すためには、診察室で確認できる症状の改善だけでなく、患者さんの希望をふまえた治療ゴールを設定することが求められるのではないでしょうか。

また、甲状腺眼症はバセドウ病などに伴ってみられますが、異なる疾患であるため、甲状腺機能亢進症の治療に加えて、甲状腺眼症に対しての治療も必要です。

適切な介入を行うために、甲状腺眼症が疑われる患者さんを、より詳しい内分泌(甲状腺)科医や眼科医に紹介することが求められます。

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